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〒152-8550東京都目黒区大岡山2-12-1-N1-6 TEL,FAX: 03-5734-3067, E-mail: ptsuka(at)nr.titech.ac.jp [(at)を@に換えてメール下さい)]

研究内容Research Topics

1. 再資源化

  • 環境調和型分離材の開発 〜廃液からレアメタルをキャッチ&リリース〜
 刺激応答性ポリマーは、温度,pH,光などの外場の変化に応答して親水・疎水性といった物理化学的特性を急激に変化させ、体積相転移を引き起こすユニークな材料です。我々は、有機合成や高分子合成の技術を基盤として、様々なタイプの刺激応答性ポリマーを新規に合成・評価し、特定の放射性核種を選択的に分離することができる新しいレアメタル分離材を開発する研究を進めています。例えば、温度変化に応答して相転移を起こすポリ−N-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)は、32℃以下では親水性であり水に溶解する一方、転移温度以上では疎水性となり不溶化します。このPNIPAAmとランタノイド元素に親和性のある官能基との共重合ポリマーを、無機材料上にブラシのように固定化すれば、温度をスイングするだけで、3価のランタノイドイオンを選択的に吸・脱着させることが新しい分離材になります。無機材料を磁性ナノ粒子にすれば、磁石で容易に回収することも可能です。有機溶媒や酸・アルカリを一切利用することはなく、環境調和型の分離材料であると言えます。官能基の種類を変えれば、リチウムイオン電池のリサイクルに不可欠なリチウム(Li)やコバルト(Co)、触媒として利用される白金族元素(パラジウム、ロジウム、白金)など、様々な金属元素を選択的にキャッチ&リリースさせることも可能です。また、このポリマーブラシ技術は、福島原発事故で生じた汚染水の処理(放射性核種である、セシウム、ストロンチウム、ウランなど)の回収などへも展開しており、その適用範囲は非常に広がっています。


 
 

  • 廃液からレアメタルを“吸って-搾って回収
 PDMS(polydimethylsiloxane)は、シロキサン結合を骨格に持つ疎水性ポリマーで、粘弾性を有し、無毒・不活性かつ光学的に透明であることから、撥水コーティング剤や医療機器・デバイス材料、化粧品など、広く利用されています。このPDMSに多孔性を持たせることで、油水分離膜(油相だけスポンジ内に入り込むが、水は入れない)や高強度の疎水性ゴムとして応用することも可能です。我々は、このPDMSスポンジをレアメタル分離材として利用する研究開発を行っています。疎水性相互作用を駆動力として、多孔性PDMSスポンジの表面に金属イオン選択性を有する配位子を固定化することより、標的の金属イオンをPDMSスポンジに吸着させることができます。さらに、このスポンジを搾るだけで、吸着していた金属イオンをスポンジから脱離させ、回収します。有機溶媒も溶離剤も利用することは無く、”擦って-搾る”という新概念の分離法です。搾り具合(機械的強度等)を制御することで、同じ3価ランタノイドであっても、イオン半径順(軽希土類、中期土類、重希土類)に分画回収できることも見出しており、更なる高度化に取り組んでいます。

 
 
  • 放射性廃棄物の資源化 〜放射線医療・診断材料への適用〜  
 グリーントランスフォーメーション(GX)実現に向け、東電福島第一原発(1F)の廃止措置への対応のみならず、核燃料サイクルの高度化に資する革新的技術の創出が期待されています。そのためには、放射性廃棄物中に存在する多種多様は放射性核種を高効率かつ高選択的に分離回収・リサイクルする技術の開発が不可欠になります。また、近年、放射性医薬品を利用する核医学検査・治療の需要が高まってきており、中でも、アルファ線放出核種(アクチニウム225等)を含む薬剤で体内からがんを殺傷する“アルファ線内用療法”は突出したがん殺傷効果が期待されることから、その需要は益々増大しています。しかし我が国は放射性薬剤のほとんどを輸入に頼っており、供給構造が極めて脆弱な状況にあります。この問題を解決するには、国内でアルファ医療用薬剤を製造できるプロセスを構築する必要があります。そこで我々は、ウランの放射壊変(ウランの同位体が崩壊して別の核種を生成すること)で生じるラジウムや、ウランの核分裂で生じるモリブデンなど、放射性廃棄物・使用済核燃料等に含まれる重要な放射性同位元素に注目し、これらを精緻に分離回収し、それを放射性医療用薬剤として再資源化する研究に取り組んでいます。上述した、ポリマーブラシやPDMSスポンジを利用して分離回収するだけでなく、それを放射性治療薬・診断薬として利用して、その細胞毒性などを評価しています。
 
 

2. 環境負荷低減

  • マイクロ・ナノ流体デバイスによる超高速分離分析 〜手のひらサイズの化学工場〜
 半導体加工技術を駆使して、数センチ角のガラスやシリコン基板上にマイクロ・ナノスケール(数10nm ~ 数100um)の微小流路を作製し、その微小流路内に、まるでコンピュータなどに用いられる集積回路のように、溶液混合,反応,分離,検出等の様々な化学操作を集積化する「マイクロ・ナノ化学システム」の研究を進めています。髪の毛の太さよりも小さいマイクロ・ナノ空間では、以下のようなユニークな特徴を発現するため、小さいけれど高速・高効率かつ廃棄物量もごくわずかの“エコ”な化学工場を実現できます。
    1.比界面積(単位体積当たりの界面の割合)が非常に大きい
    2.重力よりも界面張力が支配する
    3.分子やエネルギーの拡散輸送が極めて短時間に完了する
    4.容量が小さいため外部刺激に対して高速応答(急速加熱・冷却等)する
 我々は、これらの特徴を利用して、水と油が上下ではなく平行に流れるマイクロ多相流や前後に流れるマイクロプラグ流などのマクロスケールでは不可能な流体操作を実現すると共に、わずか数秒でレアメタルから放射性核種に至るまで様々な金属元素を分離・分析する革新的なOn-chip化学デバイスの技術と方法論を構築しています。近年は、マイクロよりも更に小さいナノ流路を用いると、流路壁面の電荷の影響で、内部の溶液物性そのものが変化すること、また、このユニーク溶液物性を利用すれば、金属イオンの挙動を単一イオンレベルで厳密に制御できることを見出しました。マイクロ・ナノ流路に廃液を流すだけで、価数の異なる金属イオン(Sr(II),Ce(III),U(VI)等)や同価数あるいは同種の金属イオン(Ce(III)/Eu(III)やU(IV)/U(VI)等)ですら、相互分離することも可能になっています。 このようなマイクロ・ナノ化学の技術と知見を、希少金属元素(レアメタルやレアアース)のリサイクルのみならず、医薬品や工場から出る廃水の溶存成分(重金属、粒子など)を除去する水の浄化・水質改善、B海水中に溶け込んでいる元素の回収、燃料電池のためのプロトン伝導体作製など、様々な環境・資源・エネルギー分野へ展開しています。




  • フォトニック結晶センサー 〜色で識別する金属イオンセンサー〜
 100 nmサイズのナノ粒子を自己組織化させると最密充填の結晶構造を取ることができます。この時、粒子間距離はちょうど光の波長に近くなるため、結晶の周期構造によって光が回折されて色を呈します。フォトニック結晶と呼ばれるもので、モルホ蝶の羽が青く見えるのは、羽に100nmの規則構造が形成されているためです。この構造色は原理的にはブラッグ・スネルの法則に従うため、距離が200nmになれば緑、400nmになれば黄色と、距離の変化に応じて色も変化することになります(実際は、角度も重要なファクターです)。すなわち、金属元素の有無に応じて距離を変化させることができれば、目で見るだけで標的の金属元素の有無を判別できる金属イオンセンサーになると期待できます。我々は、様々なナノ粒子(ポリスチレン、シリカ等)を金属イオンの吸着能を有するポリマーで包接した「フォトニック結晶ポリマーフィルム」を作製し、金属イオンの種類や濃度をセンシングする新しい金属イオンセンサーの開発に取り組んでいます。ポリマー上に標的の金属イオンが吸着すると浸透圧が変化して、ポリマーの収縮・膨潤が起こり、それに伴って粒子間の距離も変化するため、異なる色を呈することになります。大型分析装置も不要で、pH試験紙のごとく金属イオンをセンシング出来ますし、見えない放射性物質であっても色情報で抽出することも可能です。

  


  • 超臨界流体の基礎物性解明と放射性廃棄物資源化への応用 〜環境調和型の反応場〜 
 超臨界流体とは、臨界点を超えた高密度に圧縮しても液化の起こらない非凝縮性流体のことで、主に、水(臨界温度Tc =374℃、臨界圧力Pc=22.1MPa)、アルコール(Tc =250℃程、Pc=10MPa程)などの水素結合性溶媒、二酸化炭素(Tc =32℃、Pc=7.4MPa)が利用されます。液体並みの物質の溶解力と気体並みの分子拡散性を併せ持ち、これらの性質を、温度や圧力の僅かな変化だけで連続的に変えることができる極めてユニークな溶媒です。我々は高温・高圧実験装置(紫外可視(UV-Vis), 核磁気共鳴(NMR), ラマン等)を独自に組み立て、超臨界流体中における金属錯体の分子構造とダイナミクスおよびそれらが関与する化学反応について探求する基礎研究を行っています。また、この超臨界流体を反応場とした放射性廃棄物の資源化へ応用展開しています。具体的には、廃液,汚染水や土壌中等に含まれる金属イオンを金属酸化物ナノ粒子へ直接転換・回収しうる技術を創成します。使用済核燃料溶解液(U, Pu含有硝酸水溶液(U/Pu群,U/Pu/Np群,マイナーアクチノイド(MA)/FP群)へ適用すれば、組成,性状,形状が制御された酸化物燃料粉末をワンススルーで作製することができ、新しい核燃料ペレット製造技術になり得ますし、廃液の減容化,高度な除染,医薬・バイオ用ナノ粒子製造への応用など、様々なメリットを提供できます。


    

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